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蛾(イメージ)

仁徳天皇の浮気と大后の嫉妬

仁徳天皇の大后石之日売命(イワノヒメノミコト)が、宴に使う御綱柏(みつながしわ)という柏の葉を取りに木国(紀伊の国:和歌山県)に出かけている時のことです。

大后がいない隙に、仁徳天皇は八田若郎女(ヤタノワカイラツメ)と結婚しました。しかし、悪いことはできないものです。
大后に遅れていた倉人女(くらびとめ)が、ある人夫よりこんな話を聞いてしまったのです。

「最近、天皇は八田若郎女と結婚なされ、一日中遊んでらっしゃる。大后の石之日売命は、お聞きになっていないのでしょうか」

倉人女は急いで大后に追いつくと、人夫の話をお伝えしました。
大后は怒り、御綱柏(みつながしわ)をすべて海に捨ててしまいました。だから、その地を御津前(みつのさき)と言います。

大后は宮には帰らず、旧淀川をさかのぼり、山代(山城:京都府南部辺り)から回り、那良の山の口(奈良山のふもと)に着きました。

それから、大后は帰ってきましたが、筒木(京都府京田辺市)にある韓人の奴理能美(ヌリノミ)の家に泊っていました。

仁徳天皇、大后に恋の歌を送る

仁徳天皇は、人を使わして大后の石之日売命(イワノヒメノミコト)に、何回も恋歌を送っています。

山代に い及(し)け 鳥山 い及けい及け 我が愛し妻 い及き遇はむかも
(私の愛しい妻に、追いついてあってくれ)

御諸(みもろ)の その高城なる 大猪子(おおゐこ)が原 大猪子が腹にある 肝向(きもむか)ふ 心をだにか 相思(あひおも)はずあらむ
(心だけは、想い合っていたいものだ)

つぎねふ 山代女(やましろめ)の 木鍬(こくは)持ち 打ちし大根 根白の 白腕(しろただむき) 枕(ま)かずけばこそ 知らずとも言はめ
(大根のような白い腕を枕にし、共に寝ることがなかったなら、知らないとでも言うのがよいだろう)

奇妙な三色の虫の話

ある日、仁徳天皇は、奴理能美(ヌリノミ)の家に滞在している石之日売命(イワノヒメノミコト)に、口子臣(クチコノオミ)を遣わしました。

しかし、あいにくの雨。
口子臣が屋敷の前にひれ伏していると、大后は裏から出かけてしまいます。裏にひれ伏していると、大后は前から出てしまいます。

そこで、口子臣は這って中庭に進みました。口子臣は青い服に紅色の紐をしていました。その紐の色が水に溶け出して、青い服が真っ赤になってしまいました。

大后に仕えていた口子臣の妹・口日売(クチヒメ)が、そんな兄を歌にしました。

山代(やましろ)の 筒木の宮に 物申す 吾(あ)が兄(せ)の君は 涙ぐましも
(大妃になんとか伝えたい兄の姿が、なんとも涙ぐましいです)

大后は、なぜそんな歌を読むのか口日売に問いました。
「そこにひれ伏している男は、実は私の兄です」
そこで、口子臣に免じて、大后、口日売、奴理能美が協議して天皇にこう伝えました。
「大后が奴理能美の屋敷にいる理由は、ここで飼われている、這う虫が鼓(つづみ)になり、鳥になる三変化する奇妙な虫を見に来ただけです。天皇に対する何の意味もありません」(この虫とは、蚕が幼虫から蛾になる例えです)

「その奇妙な虫を見たい」
と、仁徳天皇も大勢家来を連れて奴理能美の屋敷にやってきてました。大后と仲直りしたことは、言うまでもありません。

だからと言って、八田若郎女(ヤタノワカイラツメ)への思いを捨てたということもありません。二人はこんな歌のやり取りをしています。

八田の 一本菅(ひともとすげ)は 子持たず 立ちか荒れなむ あたら菅原 言をこそ 菅原と言うはめ あたら清し女
(一本のスゲは、子を持たず枯れてしまうのだろうか。全く清々しい女だなあ)

八田の 一本菅は 一人居(ひとりお)りとも 大君し 良しと聞こさば 一人居りとも
(私は一人でも構いません。大君が良いと仰せであれば、子がいなくても)