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炎に包まれる沙本比売炎に包まれる沙本比売(月岡芳年画)

垂仁天皇の妃・沙本比売と兄・沙本毘古王の陰謀

第11代垂仁天皇の妃、沙本比売(サホビメ)の兄・沙本毘古王(サホビコノミコ)は妹に問いました。
「夫と兄の私、どちらが愛しいか」
「兄上を愛おしく思います」
沙本比売は、止むをえずそう答えたのです。
「ならば、この小刀で寝ている天皇を刺し殺しなさい」

しかし、沙本比売は垂仁天皇を三度刺し殺そうとしましたが、悲しみに負けてできませんでした。最後には涙が溢れ、涙は天皇の顔に落ちたのです。
天皇は目を覚ますと、沙本比売に語りました。
「不思議な夢を見た。沙本の地方から大雨が近づいてきて、私の顔を濡らした。また、錦色の小さな蛇が私の首に巻きついた。
この夢は、何の兆しであろうか」

沙本比売は、兄・沙本毘古王の殺意を打ち明け、
「どうしても、あなたを殺すことができませんでした」
と、涙を流しました。
「私は、危うく殺されるところだったのか」
垂仁天皇は、稲城にいる沙本毘古王を討伐する軍を送りました。

沙本比売の悲劇

天皇を殺すことはできませんでしたが、沙本比売は兄がかわいそうになり、こっそり宮を抜け出し稲城に行きました。その時、彼女は妊娠していたのです。

天皇は沙本比売を愛しく思い、包囲しただけでしばらく攻めるのを止めていました。その間に、沙本比売は御子を産んだのです。

沙本比売は子供を垂仁天皇に渡そうと考えましたが、渡す時になれば自分も連れて行かれると思い、一計を案じました。それは、髪を全部切ってからかつらにし、服も引っ張られるとすぐボロボロになるように細工し、手の周りも玉の緒で三重に巻いたのです。

案の定、天皇は子供を引き取る時、沙本比売の髪なり、服なり、手を無理やり引っ張ってでも妻を連れ戻せと命じていたのです。
結局、天皇に渡ったのは子供だけで、妻の沙本比売が戻ることはありませんでした。

垂仁天皇の3つの問いと沙本比売の答えと自害

垂仁天皇は使いのものを送り、尋ねさせました。
「子の名前は母親がつける習わしだから、名をつけて欲しい」

「城を焼くときに生まれたので、本牟智和気御子(ホムチワケノミコ)がいいでしよう」

「どう育てたら良いか教えて欲しい」
「乳母をつけて、大湯坐(おおゆえ)と若湯坐(わかゆえ)を決めて養育してください」

「また、あなたの次の后はだれがよいか」
「私の後の后は、兄比売(エヒメ)と弟比売(オトヒメ)が忠誠心があついので、彼女らがいいでしよう」

この後、天皇が沙本毘古王を殺すと、妻の沙本比売は自害して果てました。沙本毘古王と沙本比売二人の間には、兄妹以上の感情があったようです。

本(ホ)=火の意味があります。
湯坐(ゆえ)=産湯を使わせる婦人。

※第11代垂仁天皇の第四皇女は倭比売命(倭姫命 - ヤマトヒメノミコト)です。彼女が、伊勢神宮を祀りました。
また、倭比売命は倭建命(ヤマトタケル)の叔母にあたり、何度も倭建命を助けます。