スセリビメの嫉妬に悩まされながらも、オオクニヌシは三人の妻を迎え、領土を拡大していきます。
地方の娘と結婚することは、その地方の神の力も得ると信じられていました。こうして、オオクニヌシは領土と子孫の多くを得ることになります。
ガガイモの船に乗ったスクナビコノナノカミ
ある日、オオクニヌシが出雲の御大之岬(みほのみさき)にいると、小さなガガイモの船に乗った小さな神がやってきました。オオクニヌシは尋ねました。
「あなたの名前は、なんというのですか?」
神は答えません。周囲の者も誰も知りません。ただ一人タニグク(ヒキガエル)が言いました。
「クエビコ(田のかかし)が知っているでしょう」
クエビコを呼んで尋ねると、答えました。
「この方は、カムムスヒノカミの御子
スクナビコノナノカミでいらっしゃいます」
カムムスヒノカミは、原初の神ともいうべき古い神(別天神 - ことあまつかみ)です。
カムムスヒノカミは、オオクニヌシが一度目に兄たちに殺され、母サシクニワカヒメが高天原に助けを求めた時、キサカイヒメとウムキヒメを送ってくれた神です。
オオクニヌシが素性を確かめるべく、カムムスヒノカミにお伺いをたてると、お言葉がありました。
「自分の子である。私の手の指の間から生まれ落ちた神である。
おまえの兄弟として一緒に国づくりをしなさい」
こうして、オオクニヌシとスクナビコノナノカミは国づくりに励みました。
しかし、スクナビコノナノカミはしばらくして常世の国に行ってしまいました。オオクニヌシは悩んでしまいました。
「自分一人で、これからどう国を作っていったら良いのだろう。
一緒に築いてくれる神はいるだろうか」
※【常世の国】海の彼方にあるとされる理想郷。永久不変で不老不死、若返りなどの世界。天国ではありません。
御諸山の上に坐(いま)すの神
悩んでいるオオクニヌシのところに、海を照らしながらやってくる神がありました。
「私を祀ってくれるなら、一緒に国を築こう。
もし、そうでないなら、国は成り立たないだろう」
「では、どのように祀れば良いのでしょう」
「大和の東の山に祀りなさい」
この神は、御諸山の上に坐すの神(三輪山に鎮座する神)だったのです。
こうして、オオクニヌシは葦原中国(あしはらのなかつくに)の国づくりを完成させます。葦原中国は繁栄し、その噂は高天原にも伝わっていきます。
アマテラスは、葦原中国をどうするか考えるようになりました。
「出雲の国譲り」の始まりです。
※葦原中国とは、高天原に対する、この地上の世界。
大神神社 大鳥居と三輪山(出典:Wikimedia)