【目 次】
ヤマトヒメの鎮座地探しと伊勢国
第10代崇神天皇の時代に、三種の神器の一つ『八咫(やた)の鏡』が、宮の外に移されることになりました。あまりにも神の勢いが強いため、天皇がともに住むには不安があったからです。天皇が、三種の神器の一つを恐れることは、滅多にないことです!
そこで、鎮座する場所を探す任に当たったのが、ヤマトヒメノミコト(倭姫命)。第11代垂仁天皇の皇女です。日本書紀には、こうあります。
「倭姫命、菟田(うだ)の篠幡(ささはた)に祀り、更に還りて近江国に入りて、東の美濃を廻りて、伊勢国に至る」
宇陀と伊賀で各2ヶ所、近江と美濃でそれぞれ1ヶ所、そして伊勢では6ヶ所も転々としました。25年ほどかかったそうです。
こうして、今の五十鈴川沿いの地がアマテラスの鎮座地として選ばれました。その他の候補地は、「元伊勢」と呼ばれています。
ご祭神「アマテラス」の誕生—古事記
イザナギ、黄泉の国へ
日本の国とたくさんの神を生んだのはイザナギとイザナミの二柱の神。ところが、イザナミは火の神カグツチを産んだ時、深刻な火傷を負って死んでしまいました。怒ったイザナギは、わが子カグツチを十拳剣で斬り殺してしまいます。しかし、悲しみが晴れることはありません。
イザナギは、とうとうイザナミを連れ戻しに黄泉の国へ行きました。そして、黄泉の国の御殿で、イザナミと話すことができたのです。しかし……
「もう少し早く迎えに来てくだされば良かったのに…。すでに私は黄泉の国の食べ物を食べてしまったので、この世界の住人になってしまいました。もう戻ることはできません。黄泉の国の神々と相談してまいりますので、その間けっして戸を開けないと約束してください」
イザナミはそう言うと、御殿の戸を閉めました。しかし、いくらたっても、イザナミは戻ってきません。
イザナミの恐ろしい今の姿
イザナギはしびれを切らして、御殿の戸を開けて真っ暗な室内に入りました。そこで、イザナギは髪にさしてあるクシの端を折り、火を灯しました。そこで見た光景は……
腐敗してウジがわいたイザナミでした。また、妻の体には、様々な恐ろしい八種の雷神がついていました。
恐怖で逃げ出したイザナギ
「私に恥をかかせたな!」
イザナミは、黄泉の国の醜女にイザナギを追わせます。イザナギは必死で逃げます。追う醜女はす速く、もうすぐそばまで来ました。そこで、イザナギは「クロミカズラ」という蔓草を投げます。蔓草は勢いよく大きく育ち、ブドウの実をつけました。
醜女はぶどうの実にかぶりつきます。その間に、イザナギは逃げます。しかし、再度追いつかれそうになると、今度は左右に束ねた髪に刺してあった右側のクシを投げました。すると、筍が生えてきました。醜女は筍を抜くと、次々に食べてしまいます。
さらに、イザナミの体から出てきた八種の雷神と黄泉の国の1500もの軍勢が追いかけてきました。イザナギは十拳剣を後ろ手に持って振り払いながら逃げます。
黄泉比良坂の千引の石
ついに、黄泉の国と現実の境、黄泉比良坂(よもつひらさか)に差し掛かり、一本の桃の木が生えているのをイザナギは目にします。その桃の実を3個とると追っ手に投げつけます。すると、黄泉の国の追っ手は逃げ帰えりました。
死者1000人と生者1500人
ホッとしたのもつかの間、今度はイザナミが追ってくるではありませんか。イザナギは、千引の石(ちびきのいわ)という大きな岩で、黄泉比良坂をふさぎます。
そして、イザナギが岩の向こうのイザナミに別れの呪文を述べると、イザナミは恐ろしい呪いの言葉を吐きました。
「愛しい夫がそうするのなら、
私は1日に1000人絞め殺します」
「愛しい妻がそうするのなら、
私は1日に1500の産屋を建てよう」
こうして、二人は永遠の別れをし、イザナギは現世の大神として、イザナミは黄泉の国の大神として別々の道を歩むことになったのです。
島根県東出雲町の伊賦夜坂(黄泉比良坂)
アマテラスの誕生
イザナギは黄泉の国から帰ってきたので、穢れ(けがれ)を落とすために禊(みそぎ)をしました。この時、着ている衣服からたくさんの神々が生まれました。
最後に左目を洗うとアマテラス、右目を洗うとツクヨミ、鼻を洗うとスサノオが生まれました。イザナギは喜んで、こう言いました。
「自分はたくさんの子を生んできたが、最後に三柱の貴い子を得た」
そして、つけていた首飾りをアマテラスにかけ「高天原を治めなさい」、ツクヨミには「夜之食国(よるのおすくに)を治めなさい」、スサノオには「海原を治めなさい」と命じました。
※【神の数え方】一柱(ひとはしら)、二柱(ふたはしら)、三柱(みはしら)というように「柱」を使います。
伊勢神宮[内宮]ご祭神アマテラス
伊勢神宮・内宮(皇大神宮-こうたいじんぐう)は、第11代垂仁天皇26年(BC4年)に。
伊勢神宮・外宮(豊受大神宮-とようけだいじんぐう)は、第21代雄略天皇22年(478年)に。
伊勢神宮は、日本にある神社の中心です。そこで祀られているアマテラスは、日本人と社会すべてが発展していくように見守っていらっしゃいます。
20年ごとに建てかえる伊勢神宮の『式年遷宮』の思想には、「常若(とこわか)」という言葉があります。
常に若い、若くありたいという言葉ですが、「若い」とはなんでしょうか。「今を生きる永遠」という意味がこめられているそうです。神道の真髄かもしれません。こんな若い氣に満ちているのが、伊勢神宮なのです。
【伊勢神宮[内宮]ご祭神】
天照大御神(アマテラスオオミカミ)
【伊勢神宮[内宮]ご利益】
国家太平、国家発展、世界平和
ところで、黄泉の国の食べ物とは?
イザナミが黄泉の国の食べ物を口にして、現世に帰れなくなった物語と同じようなギリシャ神話が【ペルセポベーの略奪】です。
ギリシャ神話の黄泉の国王は、ハーデース。ハーデースの妃ペルセポネーは、夫にさらわれてこの黄泉の国に連れてこされたのです。そして、ペルセポネーの母デーメーテールが、ハーデースの弟ゼウスに訴えた時、ゼウスはこう言います。
「ペルセポネーが冥界でいかなる食べ物も口にしていなかったならば、連れ戻す願いをかなえよう」
ゼウスはヘルメースを使者にすると、彼は春の女神も連れてペルセポネーを迎えに行きました。ハーデースは承諾しましたが、すでに狡猾にもザクロの汁(粒とも)をペルセポネーに飲ませていました。これでは、もはや彼女は地上に戻ることは許されません。
話し合いの結果、ペルセポネーは一年の半分(8ヶ月とも)は母デーメーテールと暮らし、半分(4ヶ月とも)は黄泉の国の女王として地下に住むことになりました。
ギリシャ神話における春と冬、四季の誕生です。
※母デーメーテールは大地女神で、四季折々の農作物の女神です。娘がさらわれていた期間は、彼女の悲しみから、農作物は育ちませんでした。
レイトン作〈ペルセポネーの帰還〉