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神武天皇(出典:ウィキペディア)

出産でやってきた豊玉姫

ある日、綿津見神の娘・豊玉姫は地上の山幸彦のところにやってきました。

「私は妊娠しています。もうすぐ出産です。
ですが、天つ神御子の子は海の宮殿で産むべきでないとこちらに参りました」

そして、豊玉姫は鵜の羽を葦にみたてて産屋を作っていました。
ところが急に、産気づいてしまったので、まだ屋根を葺いていないままの産屋に入りました。その時、豊玉姫は山幸彦にお願いしました。

「他の世界のものは、出産時かならず本来の姿になります。
私も海国の本来の姿になりますから、決して中の私を見ないでください」

逃げ出す山幸彦

しかし、見ないでくださいと言われると、見たくなるものです。
山幸彦も豊玉姫の出産が気になって仕方ありません。いざという時の心配もあります。とうとう、山幸彦は好奇心に勝てず、産屋の中を覗いてしまったのです。

「あっ!」
と言うなり、山幸彦は産屋の前から逃げ出していました。
それもそのはず、豊玉姫の姿は一匹のワニ(和邇)になって、出産の苦しみにのたうちまわっていたからです。

豊玉姫も山幸彦に見られたことに気づき、子供を産んだ後
「私はずっとこちらの世界と海の世界を
行ったり来たりしようと思っていました。
が、恥ずかしい姿を夫に見られたからには、海の世界に帰ります」

そう言うと、豊玉姫は海の世界とこちらの世界の境「海坂(うなさか)」をふさぎました。もう、彼女が戻ってくることはありません。

このようにして生まれた子供は、産屋の屋根がまだ葺き終わらないうちに生まれたので、ウカヤフキアエズノミコト(鵜葺草葺不合命)と言います。別名、アマツヒコヒコナギサタケウカヤフキアエズノミコト(天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命)です。

豊玉姫の悲しい恋心と玉依姫

その後、豊玉姫は恋しい山幸彦をしたい、子どもを養育するため妹の玉依姫に託して歌を献上しました。

赤玉は 緒さへ光れど 白玉の 君が装し 貴くありけり
(赤い琥珀の玉は紐さえ赤く光りますが、真珠のようなあなたはもっと貴くていらっしゃいます)

山幸彦も、歌を返します。
沖つ鳥 鴨著く島に 我が率寝し 妹は忘れじ 世の悉に
(鴨が寄り付く遠い島で、ともに寝た私の妻を、私は忘れることなないだろう、命が果てるまで)

玉依姫=三重県伊勢市の神明神社の末社・石神社のご祭神。
「女性の願いを1つだけ叶えてくれる」石神さんとして、女性に大人気です。

石神社

初代天皇、神武天皇の誕生

その後、山幸彦は高千穂の宮に580年住みました。山幸彦のお墓は高千穂の山の西にあります。

山幸彦の子ウカヤフキアエズノミコトは、育ててくれた叔母の玉依姫と一緒になり、イツセノミコト(五瀬命)、イナヒノミコト(稲氷命)、ミケヌノミコト(御毛沼命)をもうけました。そして、最後にカムヤマトイワレビコノミコト(神倭伊波礼毘古命)が生まれたのです。

ミケヌノミコトは常世の国に渡り、イナヒノミコトは母の海国に入って行きました。そして、カムヤマトイワレビコノミコトが、いずれ初代神武天皇になります。

(古事記・上つ巻 了)