綿津見神と2つの球、塩盈玉と塩乾玉
綿津見神(ワタツミノカミ)は、娘豊玉姫の夫・山幸彦に釣り針を差し出した時、2つの玉も渡して教えました。
「この釣り針を兄・海幸彦にかえす時、この釣り針は、心のふさがる釣り針、心のたけりくるう釣り針、貧乏な釣り針、愚かな釣り針」と言い、後手で渡しなさい。
また、兄が高いところに乾いた田を作るなら、あなたは低いところに湿った田を作りなさい。もし、兄が低いところに田を作ったなら、高いところに田を作りなさい。
私は水を支配しているから、3年で兄は貧しくなります。このことを兄が恨んであなたを攻めてくるなら、塩盈玉で溺れさせなさい。
もし、苦しんであなたに助けを求めてきたら、塩乾玉で悩ませ苦しめなさい」
※後手(しりえで)=普通でない渡し方で一種の呪い
※塩盈玉(しおみつたま)= 海を満潮にする力を持つ
※塩乾玉(しおふるたま)= 海を干潮にする力を持つ
その後、綿津見神は和邇(ワニ)を集めて、問いました。
「これから、天つ神御子が地上の世界にお帰りになる。誰か、送って差し上げるのに何日かかるかわかるか」
あるワニが答えました。
「私なら、1日で送って帰れます」
「では、お前が送ってさしあげよ。だが、海を渡る時けっして怖がらせてはならぬ」
兄・海幸彦、弟・山幸彦に屈する。
山幸彦は送ってもらったお礼に、そのワニに持っていた紐小刀(ひもかたな)を首にかけてやりました。だから、そのワニは「佐比持神(さひもちのかみ)」と言います。
「佐比」とは鋭い刀のことです。
山幸彦は兄・海幸彦に釣り針を返しました。その後、兄はだんだん貧しくなっていきました。その心は荒んで山幸彦を攻めてきました。また、ある時は助けを求めてきました。
山幸彦は綿津見神に教えられたように、塩盈玉(しおみつたま)と塩乾玉(しおふるたま)を取り出し対処しました。
「私は、あなた様の守護人となって仕えます」
兄・海幸彦は、山幸彦に頭を下げました。